看護学校へ行こう
 入学から一ヶ月ほど過ぎた頃、私たちはすっかり打ち解けた。仲の良いメンバーも決まってきた。私はと言うと、特に「仲良し」という人物はつくらず、みんなと遊んでいた。

 5月半ばの暖かい日の夕食後、3階から4階へ続く階段が、ふと気になった。

「ちょっと行ってみようか。」

まきよちゃんと、4階に昇ってみた。そこには非常口があり、鍵がかかっている。だが鍵は簡単に開けられた。扉の向こうは広い屋上だった。市内を360度一望できる。ちょうど日が沈んだ頃で、夜景がまたたき、やわらかい風が心地よい。これはみんなに教えねばと二人で思い立ち、10人ほど呼んできた。みんな初めての屋上にはしゃぎはじめた。私たちは、まだ10代のガキなので、追いかけっこを始めた。それに飽きると今度はみんなで大声で歌を歌い始めた。星空の下、すがすがしい風が頬を通り過ぎ、美しい夜景を眺めながら、大声で歌うのはなんとも開放感があり、私たちはますます歌に熱中し、みんなで声をそろえて演歌を歌い始めた。気分が良いので、声も良く出る。しかし屋上はもろ病院の真向かいである。そのような場所で、夜に演歌を歌ったり、発声練習を始めたのだ。ちょうど気持ちよく歌っているところに、二年生の先輩がやってきた。怖い形相である。

「みんな中に入って!」

私たちは先輩の言うとおり、寮内に戻った。

「あのね、あんた達、夜の病院前で大声で歌なんか歌って、病院から苦情の電話が鳴りっぱなしなんだよ!それに屋上でも9時15分を過ぎたら門限破りだからね!」

と先輩にがんがん怒られた。時計を見ると、9時5分くらいである。ぎりぎりセーフだ。
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