看護学校へ行こう
 授業の方は、ようやく「看護技術」までたどりついた。やっとナースらしいことができると、みんなわくわくしていた。最初の授業は「滅菌操作」だった。先生が滅菌物を入れる丸い銀色の入れ物のカストとピンセット、ガーゼを持ってきた。ピンセットは「セッシ」と呼ぶと言うことを教えてもらう。先生は滅菌操作を一通り説明し、滅菌操作についてのビデオも見た。次回からみんなにも実際にやってもらうので、ジャージを着て、たこ帽をかぶってくるように言われた。まだ白衣は届いていないので、技術演習はジャージでやるのである。また、ナースキャップをつけてもらう儀式である「戴帽式」までは、ナースキャップはつけられない。それで水産加工場などで作業している人がかぶるように、白い三角巾で頭を覆って髪の毛一本出さないようにするのである。頭の形がもろ出るようにぎゅうぎゅうに縛るから、「たこ帽」という名前がついている。体育ジャージにたこ帽は決して格好の良いものではないが、仕方がない。

 かくして初めての技術演習である「滅菌操作」が始まった。セッシでガーゼの端をつまみ、さばいて形を崩し、相手に渡す。このときセッシとセッシがくっついたらアウトである。どんな滅菌物も、外側はすべて不潔とみなされる。また、セッシを逆さにしてもアウトである。あくまでカストの中だけが清潔なのである。私たちは簡単そうだと高をくくっていたが、初めて医療器具を持つと、なかなか難しい。ちなみにこれが、病院実習などで本当にドクターに綿球(脱脂綿を丸くしたもの)を渡すときは、緊張のあまり、手がぶるぶる震える。そして患者さんの腹の上に消毒綿球を落とした日には、

「何やってんの!」

と怒鳴られる。
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