看護学校へ行こう
 さて、私たちの番である。床屋さんのようにシャボンを泡立てるのは、なかなか気持ちよかった。だがいざ剃るとなると、怖い。何せ刃物を人に向けるのは生まれて初めてだ。みんななかなか始められない。すると先生から、早くするようにとおしかりの言葉が飛ぶ。おそるおそる、うら若き乙女の真っ白な柔肌に、剃刀を当てる。そのくらいの強さで当てて良いかわからないから、触れるか触れないかの強さでおなかに当てて、すーっと下におろす。シャボンはとれるが、毛は剃れていない。見回りに来た先生に、

「そんな力じゃ剃れないでしょ!早く剃ってあげないと、患者さん、風邪引いてしまうわよ。」

と怒られた。さっき散々人を裸で放置しておいてなんだ、と思ったが、そんなことより剃毛である。ここであることに気づく。カミソリは横にスライドすると皮膚が切れるが、垂直におろしたところで皮膚は切れない。考えて見れば、すねなど自分で毛を剃るとき安全カミソリで剃っているのだから、その要領でやればよいのである。そう思い立つと、思い切って力を入れて、すーっと下におろした。産毛はきれいに剃れた。よしよしこつはつかんだぞと思いながら、脇にとりかかる。脇は凹んでいるので剃りにくい。それでも皮膚を引っ張りながら、時間をかけて剃った。だが片腕だけでかなりの時間を要したので、急遽、おなかの毛と片腕の脇で次の人に変わることになった。残りは次回に行うとのこと。

 寮に戻ってお風呂に入ると、まきよちゃんが両腕をあげ、

「こっちがビフォー、こっちがアフター。」

などとふざけていた。まだまだナースへの道のりは遠い、私たちであった。
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