看護学校へ行こう
彼氏もいないので、海なんかに遊びにも行けない。友達は道内全域に散り散りだ。もったいない19歳の夏休みだった。あとでみんなにどういう夏休みを過ごしたか聞いたところ、大半があちこち遊びに行っていた。だが、もっと大変なのは両親だ。二人とも慣れない職場で一生懸命働いている。父は、夏場は道路清掃と水まきである。車から水を噴射している間、危険防止のため、外で待機し、歩行者や車を誘導する仕事をしていた。父は54歳だが、ずっと室蘭で暮らしてきた。慣れない仕事、初めての札幌での真夏の暑さに加え、アスファルト上での作業だ。太陽の照り返しにすっかりやられ、とうとう熱射病で倒れてしまった。父は会社を休まないまじめな人間だ。それが一日だけ休みをもらい、病院で点滴を受けた。私は学校での生活を楽しんでいるが、両親は私のため、生活のために一生懸命働いている。何もしないでのらりくらり過ごしている私は、文句を言えた義理ではない。本来なら「心頭滅却すれば火もまた涼し」と勉強でもすれば良いのだが。古い私の家は西日がもろにあたり、じっとしていても汗をだらだらかく。とても勉強などできなかった。

 中には私同様、家にいた子もいた。まやちゃんという、非常に面白い、いじられキャラの子がいたが、彼女、夏休みの間にこれまでの授業を復習することを決意し、解剖学と生理学のすべてを勉強しようと意気込んでいたらしい。ところが基礎からやると言い、解剖学の最初のページの細胞の図で核とかミトコンドリアとかを書いて、その後ずるずると勉強を後回しにしたところ、結局夏休みの間に勉強したのは細胞の図で終わったという。細胞など高校で既に習っているし、正直臨床にあまり必要ない知識だ。無駄な勉強をして、夏休みが終わってしまったまやちゃんであった。
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