看護学校へ行こう
茶道室には一応茶道のお道具が一式備えられているが、ある日先生が、

「良い茶碗があったから買ってきました。今日はこれを使いましょう。」

と言い、自らお茶をたてはじめた。先生から積極的な行為にでるのは大変珍しい。そんなにもすばらしい茶碗なのかと思い、先生のお点前をみつめていた。茶碗は外から見た分にはただの無地のクリーム色だ。お点前をいただくのは4人で、普段は学生が順番にお茶をたてる。他のメンバーはすみに正座して見学である。だが今日は先生が自らお茶をたててくださるので、私たちは正座して粛々と待っていた。最初にお茶をいただくのはまやちゃんで、次が私だった。先生がまやちゃんにお茶を差し出す。

「頂戴します。」

とお辞儀をし、まやちゃんはお茶を飲み始めた。ところが途中からまやちゃんは震えだした。となりの私はどうしたのかと心配になった。別の場所で待機している一年生も、「どうしたんだ」と言う表情で、まやちゃんを見ている。まやちゃんは体を震わせながら、いつもの倍の時間でお茶を飲み干すと、先生がよそ見している間に私に茶碗の中身を見せた。茶碗の中には絵が描いてあり、おかめが笑っていた。この茶碗、中身がみその「おかめ茶碗」だったのだ。私もたまらず吹き出した。だが先生に怒られるので、静粛にしていなければいけない。お笑いが通じるフランクな先生ではない。あくまでまじめな人だ。そんな人がなぜおかめ茶碗?と思った。笑っちゃいけないと思うと、ますます笑いがこみ上げてくる。次にお点前をいただくのは私だ。苦痛である。笑いを我慢できるか?そしていざお茶が私の目の前に差し出された。笑っちゃいけないと思いながら、お茶を飲み始めた。すると抹茶に隠れたおかめのにやけた目が、飲むたびに見え隠れする。
< 53 / 162 >

この作品をシェア

pagetop