看護学校へ行こう
 教務が教室に入ってきた。「今度はあたるかな?」とドキドキしていたら、

「ナース役は後藤さん、患者さん役は中山さん。経管栄養です。来てください。」

と教務の先生に言われた。私はごくりとつばを飲み込んだ。あの鼻にチューブを入れる「経管栄養」である。ナース役も嫌なら、患者さん役もかなり嫌だ。また、辛い思いをしなければいけない。
 かくして私たち二人は教務のあとをついていった。技術室へ行くと、私はベッドに寝るように先生に言われた。そこで

「始めてください。」

と、開始の合図がかかる。先生が、

「栄養物はレモンティーよ。紅茶は好き?」

などと笑顔で私に話しかける。レモンティーだろうがコーヒーだろうが、チューブから直接胃に注入するわけだから、味などしない。先生、私が、

「わーいうれしい。」

とでも言うと思ったのか?そんな会話をしているうちに、ナース役の子は物品を揃えて持ってきた。覚悟して目を閉じると、先生が、

「テストを中止してください。」

と言った。ナース役の子はチューブに潤滑油をつけるのを忘れたのである。不合格決定である。ナース役の子には気の毒だが、私はぎりぎりセーフで経管栄養を免れたので、ホッとした。
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