蜜事中の愛してるなんて信じない
「お前、思ったより弱いのな」

 よ、弱い!?
 初めて言われたわ、そんなこと……。

「何よ、それ……」

「慣れてねえんだろ。こうやって追い詰められるの」

 正志は、開きっぱなしのノートを緩めた人差し指でトントン、と2回つついた。

 言っている意味が理解できず呆然と立つ私を一瞥して、机に両手をついて立ち上がった。

 迷うことなく自分が座っていた椅子を持ち上げる。それを担いで、扉に向かって足を運びながら、携帯電話をポケットにおさめた。

 すれ違いざま、「帰るの?」と私が口を開きかけたとき、
「来いよ」
のひとこと。

 やっぱり、目は合わせなかった。
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