蜜事中の愛してるなんて信じない

 椅子を担いで1階に降りた正志と、その後をついてきた私。

「今日は、課外授業にします」

 正志は、ダイニングテーブルのぽっかり空いた空間に、椅子を収めながら言った。

 その言いっぷりは堂々としていて、あらかじめ決められた計画を報告しているかんじだ。もしくは、宣言。

 なによ、丁寧に置いちゃってさ。
 私の部屋では、放るくせに。

 それからだ。大切なことに気が付いたのは。
 家庭教師って、家でやるから家庭教師なんじゃないの?
 なんなのよ。課外授業って。

 お母さんは、「そう」とだけ口にすると、再び鈎針を動かし始めた。

 ちょっと、お母さん。もう少し、食い下がってくれないかしら。
 少なくとも、行き先くらいは聞いてよね、とは言えなかった。邪魔されたのだ。

「ほら、行くぞ」

 と、私の腕を強引に引っ張る正志に。

 

 
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