蜜事中の愛してるなんて信じない

 外に出た瞬間、アブラゼミの求愛が体にまとわり付く。粘り気のある汗がじわっと首筋に浮かぶ。これでもかと温められた熱風が顔を撫でていく。

 全くいい気はしない。

 じりじりと熱を量産する太陽は、太陽系一大きなハロゲンヒーターだ。

「あつい……」

「夏に寒かったら異常気象だろ」

 家の目の前にそびえる鈴広高校の校舎裏から、気合の篭った返事が聞こえる。校舎裏にはグラウンドがあるのだ。たぶん、野球部かサッカー部。陸上部かもしれない。

 先輩、頑張ってください。

 名前も、顔も知らない未来の先輩にエールを送る。
 私なりの願掛けだ。

 受験に成功したら、彼らの後輩になる。そうなって欲しい。

「歩くの遅えよ、ガキ」

「ガキって言わないでよ。
アンタ、男だったら、レディーの歩く速さに合わせなさいよね」

「お前こそ、年上をもっと尊重しろよ」

「あ、またお前って言ったね!!
いい加減にしなさいよ!」

「んだよ、ガキって言うなっつーから、呼び方変えてやったんだろ。
我が侭なガキだな」

「また!!
私にはね、由香子って名前があるのよ。そうねえ、由香子様って呼びなさい」

「それが、ガキなんだよ」

「キイィィ!!
だいたいね、どこに連れて行くつもりよ、このっ誘拐犯!!」

「お前の勉強場所」

「ははあん、そんなこと言っちゃって、私とデートしたかったんでしょお?」

「そのボケ、笑えねえ」

「ボケじゃないわよ!」
 

 
< 28 / 51 >

この作品をシェア

pagetop