蜜事中の愛してるなんて信じない
外に出た瞬間、アブラゼミの求愛が体にまとわり付く。粘り気のある汗がじわっと首筋に浮かぶ。これでもかと温められた熱風が顔を撫でていく。
全くいい気はしない。
じりじりと熱を量産する太陽は、太陽系一大きなハロゲンヒーターだ。
「あつい……」
「夏に寒かったら異常気象だろ」
家の目の前にそびえる鈴広高校の校舎裏から、気合の篭った返事が聞こえる。校舎裏にはグラウンドがあるのだ。たぶん、野球部かサッカー部。陸上部かもしれない。
先輩、頑張ってください。
名前も、顔も知らない未来の先輩にエールを送る。
私なりの願掛けだ。
受験に成功したら、彼らの後輩になる。そうなって欲しい。
「歩くの遅えよ、ガキ」
「ガキって言わないでよ。
アンタ、男だったら、レディーの歩く速さに合わせなさいよね」
「お前こそ、年上をもっと尊重しろよ」
「あ、またお前って言ったね!!
いい加減にしなさいよ!」
「んだよ、ガキって言うなっつーから、呼び方変えてやったんだろ。
我が侭なガキだな」
「また!!
私にはね、由香子って名前があるのよ。そうねえ、由香子様って呼びなさい」
「それが、ガキなんだよ」
「キイィィ!!
だいたいね、どこに連れて行くつもりよ、このっ誘拐犯!!」
「お前の勉強場所」
「ははあん、そんなこと言っちゃって、私とデートしたかったんでしょお?」
「そのボケ、笑えねえ」
「ボケじゃないわよ!」