蜜事中の愛してるなんて信じない
 向かい合わせに座って、紙コップの赤ぶどうジュースを啜る。正志は、ご希望通りコーラ。

 クラッシュアイスをシャリシャリと噛み砕く感じがたまらない。

 キンキンに冷えた甘酸っぱい液体が喉の奥を滑り落ちる。集中すると胃の辺りで溜まるのがわかる。

 冷房の風が直にあたって、ちょっと……

「ぶえっくしゅ」

「うわ、色気ねえ」

「うるさいわね!
くしゃみに色気があってたまるもんですか」

 不意に正志の手が伸びてきた。
 タンクトッブから露わになっている肩を触られた。触られたというか、掴まれた。

「あったかあ」

 無意識に声が出てしまうくらい、正志の手のひらは温かかった。

「お前、こっち座ってろ」

 正志は、私の赤ぶどうジュースを引っ付かんで、自分のコーラと位置をチェンジしながら、立ち上がった。

「え? うん……」

 有無も言わさない口調。

 正志の言葉に従って移動する私を見届けると、正志はスタスタと『ゆとり空間』出て行った。

 何だ、あいつ。

 さっきまで正志が座っていた、冷房の風が届かない席で私は赤ぶどうジュースを口に含んだ。
 
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