蜜事中の愛してるなんて信じない
 五分、十分。
 正志が戻ってきたのは、それくらいたってからだった。紙コップの中身が三分の一くらいの量になってから。中身の殆どはクラッシュアイス。

 手に黒いタオルを持って、歩いてくる。

 私の横に立つと、それを私の肩にバサっとかけた。

「あ、これ……」

「風邪ひかれたら、困るんだよ」

 不機嫌そうにそう告げながら、対面に腰をおろした。

 タオルの表面を触ると、パリパリしている。糊付けされた新品みたいだ。

「買ってくれたの?」

「わりいか」

「にしし」

「んだよ、気持ちわりいな。ニヤニヤすんな」

「なんだ、意外と優しいじゃん」

「うるせ」

 そっぽを向いてコーラを啜る正志の眉間には、シワが刻まれていて。
 瞬時に、照れ隠しだ、とわかってしまうような表情に、思わず頬が緩んでしまう。

 包装をはずされて持ってきたタオル、糊がよくきいた表面を手でさすりながら、「すぐ使うので、中身出してください」と店員さんに言っている正志を想像して、もっとニヤついてしまう。

 なあんだ、コイツ、いいやつじゃんか。

「なんだよ」

 目があった正志は、とげとげしい口調でそう吐き捨てた。

「ありがと」

「べつに」

 再び正志はそっぽを向いた。
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