蜜事中の愛してるなんて信じない
 肩にフェイスタオルをかけて、ひとり湯上り状態のまま、スロープを再びのぼり、上のフロアに到着した。

 そこでも正志は、階下同様、展示ブースをひとつずつまわり、そのたびに説明をしてくれる。

 正志は、輪切りにされた脳みそに瞳を輝かせる。
 黒いガラス玉みたいな瞳がつぶらに見えて、柴犬みたいだ。

「アンタ、こういう科学、みたいなの、好きなの?」

「お前と違ってな」

「ふーん」

「お前、理科だけ致命的に駄目だもんな」

「だって、わからないんだもん」

「楽しめばいいんだよ、純粋に。そのうち好きになるって」

「ここは、ちょっと……楽しい」

 つまりは、『苦手』な理科を楽しめとここに連れてきたのか?

 まわりくどいヤツ。

 ブースを全て回りきり、カフェみたいなところで軽食を取り、一階に下りて、奥に進み、並べられたパソコンのひとつに座った。
 正志が項目を選ぶとブラックホールの仕組みを音声付のアニメーションで教えてくれる。プラス、正志の説明付き。

 楽しかった。まるごと全部。
 建物から出るとき、そう思った。

 もう帰るんだ、と思うと寂しい気持ちにもなった。

 だけれど、不思議なことに、何かが始まる、という予感があった。
 わくわくするのに、すこし不安で、嬉しいのに切なさにしんみり。

 このときは、なんのこっちゃってかんじだったけれど、今だからわかる。
 これは、恋の予感、だったんだ。

 
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