蜜事中の愛してるなんて信じない
 缶を開けて、工場で挽いてもらった豆を3杯。マグカップ2個分だと、サーバーの3杯分の目盛りでちょうどいいのだ。

 少しだけ、熱湯をドリッパーに回しいれて、振り返ったところで、正志が口を開いた。

「地球の周期なんだってよ、暑くなんのは。
今の温暖化は、そういう周期なんだと」

 豆を蒸らす。

「それが本当だとしたら、困っちゃうじゃん。
正志の食いっぷちが奪われる」

 正志は、企業と結託して、大学で何やら研究している、らしい。お金を貰っているわけだから、たぶん、お仕事として。
 詳しいことはわからない。
 そこは、私の管轄外。ただ、わかることは、うちの父がその研究チームのリーダー的存在だってこと。

「んなことは無いと思う。今のところ」

 ケトルから、お湯を細く細くして、じーっくり回しいれる。

 ドリッパーから落ちる液体の線は、綺麗な琥珀色で、これが何故、サーバーの底に溜まると黒い色になるのかが、今、二番目の疑問なのだ。

 正志に訊いてみようと思うのだけれど、鼻で笑われるのがオチだと、いつもすんでのところで踏みとどまる。

 まあ、昆布を粉末にすると淡い緑色になるのと逆の原理なのかなと、勝手に頷いてひとり満足している。

 もちろん一番の疑問は、正志が何故『言ってくれない』のか。


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