蜜事中の愛してるなんて信じない
「まーさし!! ちゅうもぉく!!」

 私が声を張り上げたのにも関わらず、正志は面倒くさそうに顔を上げた。
 その顔には、「うるせえな」と全面に書いてある。

 恋人歴三年のキャリアを誇る由香子さんは、そんな顔慣れっこだ。
 よって、無視。

「ただいまより、簡易視力検査を行います!!」

「あ?」

「ほら、立った、立ったあ」

 正志は、目を細めてわざとらしい溜め息をひとつ吐く。
 そして、何も無かったかのように再び、本に視線を落とした。

「まぁさぁしぃぃ」

「うるっせえな」

「座ったままでもいいから」

「お前なあ……」

「お願い!!」

「わぁかったよ。『本と私どっちが好きなの』って言いかねないからな、お前は」

「あ、わかった? ちなみに答えは?」

「本」

「はあ?」

「本は口答えしねえ」

「ふん、そんなこと言って由香子さんが大好きなくせに」

「うるせ」
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