蜜事中の愛してるなんて信じない
 むすくれた顔で開いているページにしおり挟むと、空気を破裂させるような音を立てて本を閉じた。

「で、なに」

 目線だけ私に向けて、強い口調、「しょうもないことだったら承知しねえぞ」がその短い言葉の中に存分に込められている。

「ではでは、私が指したところを読み上げてくださいね」

「……その半端な行数、嫌な予感がすんだけど」

「おほほ、正志さん、気のせいですことよ」

「さいで」

「じゃあ――」

 私は選ぶふりをして、文字のひとつを「これ」と鉛筆で指した。

「あ」

 次を指す。

「い」

 ふふふ。いい調子。
 私が言わせているという事実はこの際置いておいて、正志の声に心臓がはねる。
 今すぐ正志に飛びつきたい衝動を抑えて、次の文字をさした。

「し」

 ああ、ついに、ついにこの時が――。
 三年分の緊張が、いっぺんに襲ってきたようで次の文字を指す鉛筆が震える。それは直線を引こうとしたら波線になってしまいそうなくらい。

「……わかりません」

 その瞬間、私の期待感はパリンと音を立てて弾けた。
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