群青の街
その声に、サナと一瞬目を合わせた。

『これ、頼んでいいか。』

『はい。』

入れたばかりのコーヒーをサナに渡して、給湯室を出た。


『なんだ。』

『ミナト町3番角から通報です。』

『ミナト町?また随分と距離あるトコから入ったな。で?』

ミナト町は、警官隊の本部を置いているこの《ヒノ町》から2つ町を越えた所にある。と言っても、ミナト町には警官隊の支部がないから、ここに電話が入ってもおかしくはないのだが。

『殺人です。』

『なに?』

その言葉に、一瞬にして緊張が走ったのが、自分でもわかった。

『被害者は?』

電話を握りしめたままのタナカに駆け寄った。しかし、タナカは俯きがちで答えない。

『おい、被害者は?』

もう一度、声をかけた。するとタナカはゆっくりと、その手を上げて、人差し指でどこかを指した。その指を辿って、視線をうつす。

その先にはーーーー。


『シン・タバタです。シン・タバタが…やられました。』


自分の目がその写真にうつる、ニヤリと笑ったそいつの顔を捉えたのと、タナカがそう答えたのは、ほぼ同時だった。





それから、とりあえず出勤していた部下を集めて、車を現場へ走らせた。自分たち警官隊が1年追いかけて、それでも足取りがつかめなかったあの男がやられた。その事実は、少なからず、レオンに敗北感をもたらした。

けれど、現場について、シン・タバタの死体を見た瞬間、その敗北感は消え失せた。代わりに、自分を襲ったのは、妙な安心感だった。その後脳裏には、闇に生きるあの少年の後ろ姿が写し出されていた。



< 8 / 16 >

この作品をシェア

pagetop