明日死ぬ
親父がいるハズの磨りガラスから明かりの漏れるリビングの扉を前を素通りしてダイニングキッチンに入る。

いつもの場所に親父の買い物用の財布が無造作に置いてある。

俺がまだ小学生だった時に金を抜いたのがバレてブン殴られた。それ以来やってないから油断しているんだろう。

その事を後で後悔しやがれってんだ。

ちゅうちょなく財布を手にとり中を見ると札だけで二万五千円位あったんで、それだけ抜き取りポケットにねじ込む。

長居は無用だ。

入ったばかりのキッチンを出て玄関へ向かう。

途中廊下でこれで親父と会う事もなく死に別れだと思い付いだが立ち止まりはしない。

例え最後でもあのオッサンにかける言葉なんてねーよ。

再び靴を履いて家を出て歩きだす。

もう帰りはしないだろうが、振り返って見る程の思い入れはあの家にはなかった。
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