明日死ぬ
伸ばした手を向けたまま近づくとケイゴ君はあごを引き肩をすくめるそぶりを見せる。

隠そうとしてもビビっているのは丸わかりだからことさらゆっくり歩いて彼の恐怖をなぶる。

人間とは愚かなもので柔らかく微笑むだけで簡単に私を優しそうだと勘違いをする。

すると優しい人がイジワルをするはずがないと思い込みアッサリ身を委ねてしまう。

そんな人間たちの心の隙間につけ込むのは正に赤子の手をひねるようだ。

「では失礼しますね」

せっかくなのですぐには始めてやらずにもったいぶる。

手が触れる直前の所で止まり彼の前に立つと、彼は目を閉じて歯を食い縛り両の手を体の横に伸ばして握りしめる。

別に私は殴る訳ではないんだけどな。

心の内の嘲笑は見せずに私はあくまで微笑む。
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