H A N A B I
最初で最後の恋
鏡の前に立ってから三時間が過ぎた。
高まる鼓動を抑えることができずに、上杉美和は浴衣の裾を強く握りしめた。
恋する気持ちはどうしてこんなにも苦しいのだろう。
一緒にいるときは幸せなのに、離れていると胸の中がぎゅっと締めつけられる。
強く、強く。
きっとそれは離れているだけじゃなく、あの人が別の人を見ていることを知っているからだ。
こうやって鏡の前であの人のことを想っていても、それは一方的な片思い。
きっと今頃、あの人は別の人を想いながら待ち合わせ場所に向かっていることだろう。
最近までそれでいいと思っていた。
振り向いてくれなくてもあの人を想うだけで、
それだけで幸せだ、と。
けれどあの人への恋心が募っていくごとに、苦しみも増していく。
正直、限界だった。
口では幸せだと言っていても、私は心のどこかでであの人が振り向いてくるのを待っていた。
私だけを見ていてほしい。
独占欲が支配して、いつしか私はあの人に憎しみを抱くようになった。
どうして、振り向いてくれないの。
どうして、私だけを見てくれないの。
どうして。
どうして。
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