H A N A B I

慣れない下駄で待ち合わせ場所へ向かうと、あの人が笑って手を大きく振っていた。

少年のように屈託のない笑顔。

あの人が無邪気に笑っているだけで心が満たされた気持ちになった。


「お待たせ」


と私が言うと、彼は


「いや、こっちも今着いたところ」


と答える。

それだけのやりとりが嬉しくて幸せだと感じてしまう。


「浴衣、似合ってるよ」

「ありがとう」

「すごく似合ってる。おれは幸せ者だな。今日はこんな可愛い女の子と一緒にいられるなんてみんなに自慢したいよ」

「また調子のいいこと言って」

「本当だよ。いつもの美和じゃないみたいだ」


彼の言葉がくすぐったくて、私は火照った顔を仰ぐのに精一杯だった。

土手を降りて上を見上げると、まだ白みがかかった空が広がっている。


「花火大会が始まるまで時間があるね。飲み物買ってくるよ。なにがいい?」

「私は───」

「レモンティー、だろ」


私は驚いて、彼を見上げた。


「美和はいつもレモンティーばっかり頼むよな」


彼は悪戯な笑みを浮かべて言った。
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