H A N A B I
花火が始まる時間に近づくにつれて、周りは大勢の人で賑やかになる。
目の前に座った恋人同士は幸せそうに笑い合っていた。
私と彼も恋人同士に見えるだろうか。
ちゃんとデートしているように見えるだろうか。
何気ない会話を交わすだけで、お互い一週間前にあったことを口に出すことはなかった。
きっと優しい彼のことだ。
私を気遣っているのだと思う。
だから私もあえて、何もなかったかのように接した。
今はまだ、彼と一緒にいるこの時間を大切にしたい。
花火が終われば、この関係は終わってしまうのだから。
だから今はまだ。
けれど、そう思えば思うほどに笑顔が引きつってしまうのが悔しい。
そんな私の様子に気付いたのか彼は困惑した表情を浮かべていた。
「大丈夫?」
その優しさが辛くて、私は黙って俯いた。
「女の子は大変だよな。浴衣着て慣れない下駄履いてさ。疲れたときはちゃんと言えよ」
本当は知っているくせに彼はわざと知らない振りをする。
ふと、彼の薬指で光っている指輪が目に入った。
どうして彼は私のものじゃないのだろう。
胸のずっと奥にしまったはずの独占欲が今にも溢れ出しまいそうだ。