H A N A B I


「この前は、ごめんね」


私は俯いたまま小さく呟いた。

彼は私をちらりと見やると、空になった紙コップを芝の上に置いた。


「気にするな」


やがて、花火が始まる知らせがアナウンスで流れた。

屋台に集まっていた人々が次々と土手を降りていく。

私は人混みにかき消されないように大きな声で、勇気を振り絞って訊いてみた。


「今日はどうして私を誘ったの?」


彼は少し考えてから答えた。


「美和と見たかったから」


その時、爆音と同時に歓声が上がった。

見上げるときれいな赤色が夜空を彩っている。


「きれい」


私と彼は次々と打ち上げられていく花火に夢中になっていた。

花火はまるで、花のようだ。

夜空に咲く大きな花は人々に笑顔を与える。

一つ散っては、咲いて。

また、一つ散っては咲いて。


「ここの花火大会のジンクス知ってる?」


私が首を横に振ると、彼は言った。


「好きな人と一緒に見ると幸せになれるんだって」


また一つ、大きな花が散って咲いた。


「だから美和を連れてきた。美和には幸せになってもらいたいから」


花火の光に照らされた彼の横顔はどこか悲し気に見えて、私は泣きそうになった。

この恋は私だけではなく、彼をも苦しませていることに気付いた。
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