H A N A B I
「相変わらず、あなたは優しいね。ねえ知ってた?あなたの優しさは私にとってすごく辛いものだったんだよ」
彼が困ったように眉を寄せる。
その戸惑った表情が面白くて、私はくすりと笑った。
「でもそこがあなたのいいところで、私の好きなところでもあったの。だから余計辛かったんだと思う」
「美和…」
私は大きく深呼吸をして、彼と向かい合った。
「初めて会ったときからあなたのことから好きだった。彼女がいることは知っていたけどどうしても諦められなかった」
とうとう伝えることができた。
ずっと言いたかった。
たったの二文字なのに、どうしても口にすることができなかった言葉。
それが、やっと。
彼は小さく頷いて、照れくさそうに微笑んだ。
「ごめんね。何度も言おうとしたんだけど言えなくて」
「いや、おれの方こそごめん。その、美和の気持ち全然気付かなくて」
「当たり前でしょ。ずっと隠してたんだから。だから謝らなくていいよ」
「そうかもしれないけど…」
どこからか着信音が流れる。
彼がポケットの中を探っていることで、彼の携帯電話が鳴っているのだと分かった。