愛に溺れろ。

「やっぱり、そっち……行こうかな?」


ピチャン―と水の滴り落ちる音がお風呂の中へ響く。



「…勝手にしろ」


そう言って外方を向いた敦志に不安を感じながらも、あたしはゆっくりと敦志に近付き胸の中へとポスッと座った。



「…………。」



は、恥ずかしー…

てゆーか何で何にも
言ってくれないの?

駄目……だったかなぁ?




「あ、敦志?」


そっと後ろを振り返れば、そこには顔を真っ赤にして目を見開いている敦志がいた。



「…え?」


「バッ…!おまっ、こっち見んな!」



顔を軽く手で隠しながら焦る敦志に、何だか嬉しくなって思わず笑ってしまった。



「笑うな」


そう言って軽く睨まれ、
後ろから抱きしめられた。

「ごめん」と謝りながら、
あたしの顔は自然と綻んでいく。


「怒ってたんだがな……」


あたしを抱きしめる力に、
ぎゅっと力がこもった。


「可愛かったから、許す」


そうボソッと耳元で囁かれた瞬間、あたしの呼吸は敦志の唇によって奪われた。


それはほんの一瞬で。
だけどすごく長かった。



< 105 / 129 >

この作品をシェア

pagetop