愛に溺れろ。
「そろそろだ」
「えっ?」
数分間の沈黙の中、ふいに発した敦志の言葉に伏せていた顔を上げる。
パッと外を見ると、もうすでに地上からは何十メートルも離れていて、頂上に着くまで、あとほんの数分―
「里香、」
「ふぁいっ!」
「ハハ、そう緊張するなよ」
違う意味での恥ずかしさ。
顔がカッと赤くなる。
クスクス笑う敦志の声が
小さい箱の中に響く。
やがてピタッと止まった声に
俯いていた顔を上げた。
するとそこには、ドキッとするような、敦志の満面の笑みがあった。
「隣に来い、里香」
「え?」
「向かい合ったままじゃ、キス、出来ないだろ」
そ、それはそうだけど……。って言うか、本当にキスしないと駄目……なのかな?
「約束を、破る気か?」
あたしの気持ちが分かったのか、敦志は不機嫌そうに眉をひそめた。