愛に溺れろ。
「そ、そんなつもりじゃ…―!」
「じゃあ早く来い」
有無を言わせない敦志の低く鋭い声に、あたしはそっと立ち上がり、敦志の隣へと腰を下ろした。
頂上まで、後、数秒…―
ふと、左手に感じた温もり。
視線をやると、あたしの手を包み込んでいる敦志の大きな手があった。
「里香、頂上だ」
ドキンッ―!
脈を打つ胸。
赤く染まる頬。
敦志の顔が、
見られない……。
「……おい」
敦志の少し、呆れた声。
…っ…―!
やっぱり、あたしには―
「ごめん、無理……」
敦志に聞こえるかどうかの狭間で、決死の覚悟で呟いた言葉。
握られた手が、一瞬……強みを帯びたのは、あたしの気のせいだったのだろうか?