愛に溺れろ。

「それで、何だ?」


思い出した様に振り返った敦志に、あたしは何も言えずただ首を横に振る。



「何だ。ハッキリ言え」



声のトーンが少し下がった。

敦志……イラついてる。
でも、さすがにもう言えないよ。




「本当、何でもないから」


「嘘つけ。そんな顔して何も無いはないだろう」


「え?」


そんな……顔?

あたしは今、
どんな顔をしてる?


自分じゃあ、分からない。



そっと頬に、敦志の右手が添えられた。



「泣きそうだ」



たった一言。

敦志のたった一言で、
すべてが理解出来た。



涙は、溢れない。

でも、敦志の顔がゆっくりとぼやけて行く。



「言いたいことがあるなら言え。ちゃんと、聞いてやるから」



今度は両方の頬に添えられる暖かい手。


優しく見つめる敦志の表情に、
欲望が、言葉となって溢れ出す。


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