愛に溺れろ。
「あたし、どうしよう……」
「何がだ?」
「小さな浅瀬で、溺れてるの」
敦志はそっと、頬に添えていた手を離した。
そしてあたしから目を逸らすことなく、ジッと見つめる。
「こんな短い時間の中で、敦志をどんどん好きになってる。さっきのキスだって……もっとって、もっとして欲しいって……思った」
そう言って、俯く。
こんなに早く好だと言ったあたしを、敦志は軽蔑する?
単純な女だったんだって、離れて行く?
怖くて、顔が見られない。
「それで良い」
「……ぇ……?」
敦志の思い掛けない言葉に、咄嗟に顔を上げた。
「溺れろと言ったのは俺だ。気にすることはない」
「……。」
「浅瀬で溺れてる……か。さすがに、里香からそんな言葉が出るのは予想外だったが……」
敦志の形の良い唇がフッとつり上がる。
「安心しろ。俺の方が、とっくの昔にお前に溺れている」
「え……?」
どう言う、意味……?
「もう遅い。帰るぞ」
敦志はそう言うと、あたしの手を握り歩き出した。