善と悪の狭間で・・・
彼女の唇に触れるか触れないかと言う距離になった時だった。
突然彼は閉じていた瞳を開くと、何かから逃げるかのように彼女の傍から飛び退いた。
彼女から離れ床に足を付くと同時に、窓の外から勢い良く火の玉が飛んで来る。
その火の玉はぶつかった壁を真っ黒に焦がしていた。
小さな炎が燃え尽きるのを見届けると、銀色の前髪で隠れていない右目で窓辺の方をギロリと睨む。
そこには、金色髪をした美形の少年が片手に炎を浮かべ立っていた。
「チッ、外したか。だが、次は逃がさねぇぜ。」
少年をそう言うと浮かべていた炎を激しく燃やして見せる。
その炎を見て男は鼻で笑うと、少年を睨んだまま口を開く。
「無駄な力を使う気はないんだ。さっさと消えてくれる?」
妖しく笑って見せると、いつの間にか男の姿は少年の目の前にあり、彼の首を掴むと壁に押し付ける。
掌に浮かべていた炎は何かに中和されるように消え去り、首を締め付けられる少年は顔を歪めその腕を掴む。
だが少年の力では男には到底かなうはずもなく、爪を立ててもその腕は放れる事はない。
少年の細い首を握り潰そうとする男は、苦しむ少年の表情を楽しむかのように見下ろし、イエローの瞳を細めて笑っていた。