気狂いナースの注射芸

「出ないなぁ……」



河野は一度電話を切ると、



「有藤先生、彼女の家はどうですか?」



運転席の窓から美枝の部屋を見上げる有藤に話しかけた。



「居るとは思うのよ……、電気ついてるし。―――――――――ん?」


「どうしました?」


「今、何か聞こえなかった?」


「いえ、特には……」


「気のせいかしら」



首を捻りながら、有藤は再び美枝の部屋を見上げた。


「しかし……有藤先生が昨日から言ってる事が、俄かに信じられないのですが」


「本当なんですよ。あなた、彼女の恋人でありながら全く気付かなかったの? 鈍い以前に馬鹿ですよ馬鹿」


「………すみません」



何も言い返せない河野は、すっかりしょげて助手席のシートに縮こまった。

それを見た有藤は、



「ダメ男」



と、溜め息混じりに更に河野を攻撃した。



そうして苛々と貧乏揺すりをしながら待つこと五分弱。



《プルルルルッ、プルルルルッ》



河野の携帯が電子音と共に震えた。

有藤は心臓が一気にはね上がるのが解った。

河野の方を見ると、おそるおそる、といった様子で二つ折りの携帯を開いた。



「……美枝です」


「なら早く出なさい」



有藤は運転席の扉のスイッチを押して助手席側の扉の鍵を開けると、

《このまま行け》

とでも言う様に手を払った。

困った様に扉を開け、閉めて、河野は美枝の部屋があるマンションのエントランスへ入って行った。


情けない。


男というのは、何故こんなに優柔不断な奴ばかりなのかしら。


しかも―――……


有藤は鈍い光を放つカーランプを見上げた。







「半ドアだっつの」







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