気狂いナースの注射芸
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「はい、これで良いわ」


「ありがとうございます……」



夜中の診察室。
今日は急患が少ないのか、ナースセンターには奈津子一人しか居らず、当直の医者は仮眠を取っているのか、姿が見えない。


さて、こんなに気の抜けた体制でよろしいのだろうか。有藤は今度、院長に直々に文句を申し上げる決意をしながら、余ったガーゼ等を定位置に戻した。



「…………」


「……す、すいません…………、私、トイレ」



そう言ってオドオドと立ち上がった美枝に



「待て、俺が途中までついて行く」



河野は厳しい声で言うと、美枝の背中を押す様にして部屋を出ていった。



「人って、見掛けによりませんねぇ」


そう言って有藤の傍ら、溜め息を吐いたのは奈津子だ。



「明るくて可愛くて、か、河野先生と………っ!」


「落ち着いて」


「あ、ごめんなさい。だってわたし、河野先生憧れてたんです」


「そりゃ、かっこいいもんね」


「まあ、旭さんも美人だし、お似合いだから全く憎めないんですがね」


「同感」



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「圭司さん、その……」


「いいよもう。もうしないでくれるならね」



河野が振り返ると、複雑な表情でこちらを見る美枝がいた。

その表情で、彼女が自傷を止める事を嫌がっているのが容易に理解出来た。

何故止めたくないのか。

本気でそれを生きる糧としている人間にしか理解出来ない。



故に河野は全く理解出来なかった。

困りはて、黙って有藤達の居る診察室へと、廊下を歩き出した。

美枝も二、三歩後ろから着いてきた。


夜の病院は静まりかえり、非常口のライトの光だけが頼りだった。

河野は常時設置されてる消火器の前を通り過ぎ、溜め息を吐いた。

















再び息を吸う前に、頭部に衝撃を受けた。










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