気狂いナースの注射芸


ズルズル………


ズルズル………



耳に入ってくる


何か引きずる様な音。



それが自分の足である事に気付くまで、そう長くはかからなかった。



「…………く……っ」



手を動かそうとしても動かない。
見れば、両手をカテーテルで縛られている。


今の状況は……

引きずられてる。


左腕を掴んで河野を運んでるのは、間違えようもなく美枝。

美枝はナースステーションの中へ、河野を引きずって入って行くと、河野が動かない様にと、その辺にあったガムテープで足を固定しはじめた。



「み、美枝……?」



呼び掛けると、美枝は動きをピタリと止め、



「……………」



新しくガムテープを短く切って、河野の口を塞いだ。



「煩いんだよ、馬鹿男」


「………っ!? んーっ!」



放たれた冷たい言葉。
此方を見る冷えた眼。

河野の知る美枝ではなかった。



「なんでって顔、してるね。…………でも今は、答えらんないの」



使い終わったガムテープを近くのテーブルに置くと、



「楽しい夢でも見てる? 圭司さん、痛いの嫌いだもんね」


「んんー! …………んーっ!」



美枝が注射器を手にしているのを見た河野は、脅えた瞳で身をくねらせた。



「んーっ!んーっ!……んーっ!」


「それ、止めたらしない」



低くなった美枝の声に、ピタリと動きを止めた。




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