気狂いナースの注射芸
貳
「おはようございます!」
気持ちの良い朝の光に目を細め、美枝は今日も天気である事に幸福を覚えた。
「おはよう、美枝ちゃん」
「おはようございます、狭山さん!」
「旭さん、おはようございます」
「おはよう、香織ちゃん」
廊下ですれちがった患者と挨拶しながら、美枝はある姿を探していた。
今日は朝からのシフトだった。
あの人も同じ。
そう思うだけで、至福だった。
「杏花さんおはよう」
「……今日はユカリよ」
美枝が勤める病院は精神病院だ。
普通の病院と違って、何時患者が暴れるか解らない、自殺しようとするか解らない、逃げ出すか解らない、そんな所だった。
看護婦達にとって精神病院とは「外れくじ」的なもので、大体が一年以内でギブアップしてしまう、大変な場所だ。
そんな「外れくじ」でも、美枝はめげずに働き、今年で4年目になる。
それは自分自身が精神的な問題を抱えていて、患者に感情移入できるからだろうか。
少しずつ、ゆっくりでも前に進もうともがく患者を見ていたら、自分も頑張りたい、なんて考えるようになったのかも知れない。
美枝は、この病院が好きだった。
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