気狂いナースの注射芸

「おはようございます!」



気持ちの良い朝の光に目を細め、美枝は今日も天気である事に幸福を覚えた。



「おはよう、美枝ちゃん」


「おはようございます、狭山さん!」


「旭さん、おはようございます」


「おはよう、香織ちゃん」



廊下ですれちがった患者と挨拶しながら、美枝はある姿を探していた。


今日は朝からのシフトだった。


あの人も同じ。


そう思うだけで、至福だった。



「杏花さんおはよう」


「……今日はユカリよ」



美枝が勤める病院は精神病院だ。

普通の病院と違って、何時患者が暴れるか解らない、自殺しようとするか解らない、逃げ出すか解らない、そんな所だった。


看護婦達にとって精神病院とは「外れくじ」的なもので、大体が一年以内でギブアップしてしまう、大変な場所だ。


そんな「外れくじ」でも、美枝はめげずに働き、今年で4年目になる。


それは自分自身が精神的な問題を抱えていて、患者に感情移入できるからだろうか。

少しずつ、ゆっくりでも前に進もうともがく患者を見ていたら、自分も頑張りたい、なんて考えるようになったのかも知れない。

美枝は、この病院が好きだった。


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