気狂いナースの注射芸
「河野先生」
「ああ、旭さん、丁度良かった。―――特別隔離室にこの前入れた仲木戸さんをこちらに戻すの今日だから、カテーテル外すの気を付ける様に。まだ暴れるならそのままね」
「はい」
「あと、杏花ちゃんの催眠療法、午後にやってみようと思う。念のためガンバトロールと鎮静剤用意して」
「はい」
河野圭司は美枝より三歳年上の三十歳だ。
若いが腕は確かで、一時アメリカの病院に居たという。
顔立ちも美しく、看護婦達の憧れの的だ。
「朝から忙しいぞ、ちょっとコーヒーでも一緒にどうだい」
「―――はい」
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コーヒーの自販機を通り過ぎ、角を曲がって監視カメラの死角に入った。
階段の下に扉がひとつあり、その中は何もない、使われていない部屋だった。
その部屋のただひとつだけの鍵をポケットから出した河野は、素早く鍵を開けて美枝と中に入った。
部屋は二畳半程で、四方はコンクリートの壁が囲み、唯一、光を入れる窓は三メートル程高い所にあった。
「美枝……」
かすれた声で呟き、河野は美枝を後ろから抱き締めた。
美枝は、耳元で聞こえる河野の荒い呼吸に少し引いたが、目を閉じてその呼吸だけに神経を尖らせたら、だんだん身体の中心が潤うのが嫌でも解った。
美枝は河野の腕の中で身体を回転させて、河野と向き合うと、どちらからともなく唇を重ね合わせた。
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