放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め
熊田先輩は俺の目の前に立った。
ベンチに腰掛けたままの俺は熊田先輩を見上げる。

向かい合う俺と熊田先輩。

「まずは腕からだな」

俺の腕をとり、熊田先輩はゴツゴツした手でマッーサージを始めた。
慣れた手つき、筋肉がほぐれていくのがわかる。

「トレーニング後、10分以内にマッサージしないと、固い筋肉がついてしまうんだ。固い筋肉は怪我の元だからな。お前にはしなやかな筋肉を身につけてほしい。俺は、お前が怪我をすることを望まないからな…」

年下の、入部したばかりの俺を、丁寧にマッサージしてくれる熊田先輩。
俺に強くなってほしいのだろう。
俺が強くなれば、団体戦も有利になる。
熊田先輩の、夏の最後の大会にかける意気込みが、ヒシヒシと伝わってくる。
ありがたい。
ありがたくてしかたない。

俺は再び感謝の言葉を述べようと思ったがやめた。

俺の腕をマッサージする熊田先輩の顔が、真っ赤だったからだ。
熊田先輩は照れているんだろう。
不器用な男だから、後輩に感謝されている状況に、照れて顔が真っ赤になっているんだろう。

俺は熊田先輩をこれ以上照れさせないため、感謝の言葉の代わりにこう伝えた。

「わかってますよ、熊田先輩。熊田先輩の気持ち、俺には伝わってますから」

熊田先輩はただ目を閉じた。
目を閉じ、顔を赤らめたまま、何も語らない。

沈黙のまま、腕、そして肩へのマッサージは続く。

しばらくした後、熊田先輩は突然大きく息を吐いた。

まるで意を決したかのように。

熊田先輩は俺の腕から静かに手を離し言う。


「次は…、大胸筋のマッサージだ…。」

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