放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め
熊田先輩は俺の大胸筋をマッサージし始めた。

三本の指で腕の付け根の辺りから、徐々に胸の中心へと。
素晴らしいマッサージの腕前。さっきまでの筋肉の張りが少しずつ消えてゆく。

思わず言葉が出る。

「いや〜、熊田先輩、気持ちいいです〜」

熊田先輩の息遣いが荒くなっていく。
そりゃそうだ、ずっと俺の筋肉をほぐしてくれているんだ。
きっと疲れてきたんだろう。
俺は申し訳なく思い、熊田先輩に言った。

「熊田先輩、息があがってますよ。このへんで終わりにしてもらってかまわないです。ここまでして頂いて、俺、もう満足ですから」

熊田先輩はびっくりしたように言う。

「ここで終わりだなんて、俺が満足できるものか!最後まで!最後までだ!」

俺の筋肉のことを考え、最後までマッサージをすると言い張る熊田先輩。
まさにプロフェッショナル。
それもわからずに“もういいですよ”だなんて。
俺は自分が恥ずかしかった。

「わかりました、熊田先輩、最後までお願いします」

俺の言葉を聞くと、熊田先輩はおもむろに柔道着を脱いだ。
上も下もだ。

閉めきられた狭い部室だ。
たぶん暑かったんだろう。

トランクス一枚でベンチに腰掛ける俺。
俺の目の前には、黒いピチピチブリーフの熊田先輩。

「やはり後ろからだろうな…」

熊田先輩は独り言のようにつぶやくと、俺の背後にまわった。
熊田先輩の手が俺の大胸筋にのびる。
さっきまでとは明らかに違う、荒々しいぐらいの力強さだ。

手のひら全部で、俺の大胸筋を揉みほぐす。
背中には熊田先輩の体温が伝わってきている。

“おお、これこそがプロフェッショナルなマッサージなんだな”

俺は関心した。

「熊田先輩、すごいです!」

「そうか!すごいか!」

「熊田先輩、すごいです!」

「そうか!すごいか!」

俺が熊田先輩のマッサージテクニックを大声で絶賛しているその時、急に部室のドアが開いた!


主将だった。

俺は挨拶する。

「主将、お疲れさまです!」

今日2度目の、主将への“お疲れさまです”。


熊田先輩のマッサージの手が止まった。
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