放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め
こうして、俺の柔道部生活は始まった。

授業が終われば部活に精を出す毎日。

居残りは禁止なので、特別に練習中に筋肉トレーニングをさせてもらったりもした。
皆が乱取りや打ち込みをしてる中、1人もくもくと筋トレをしているのは不自然なのではとも思ったが、他の部員から特に不審がられることもなかった。

きっと、主将や熊田先輩が根回ししてくれていたんだろう。

寝技は主将や2年生が相手をしてくれた。
勉強にはなるが、あまり伸びてはいないと思う。

熊田先輩に直接指導を受けれれば、もっと強くなれるだろうにと、残念ではあったが、主将と約束した以上仕方がない。

トイレも面倒だが、ちゃんと隣の校舎まで行っていた。

あの一件以降、主将がいると熊田先輩は俺に話しかけてくることはない。
しかし、練習が始まる前、主将がまだきていない時には、以前と変わらず俺に笑いかけてくれる。
他の部員などそっちのけで、
「不自由な状況だろうが、頑張れ!俺の中でお前は特別だ!いつでも見守ってるからな!」
と、優しい言葉をかけて、肩を叩いたり背中をさすったりして励ましてくれる。

主将が来ると、熊田先輩はサーっと俺の側から離れる所を見ると、やはり2人はあまり仲が良くないのかもしれないと思ったりする。

いつだったか、熊田先輩は練習前に

「お前は俺を尊敬していると言ってくれた。その時から俺はお前を弟みたいなものだと思っている。お前も俺が兄みたいに思えるんじゃないか?どうだ?ちょっと俺を、“アニキ”って呼んでみろ。さあ、恥ずかしがらずに、ね〜、“アニキ”って呼んでみろよ〜ん」

と、俺にささやいているのを主将に聞かれ、こっぴどく怒られていた。

「熊田に“アニキ”とか絶対いうなよ!」
と主将は俺に言ったが、冗談とはいえ“弟みたいなものだと思っている”と熊田先輩に言ってもらえるようになったのは、嬉しかった。


しかし5月、俺は熊田先輩の怒りを買ってしまった。

今までの兄弟のような信頼関係は終わりをつげたのだ。
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