放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め
「あのな、メキシコで知ってること、言ってみろ。なんでも良いから。特産物でも有名人でも食べ物でもなんでも良いから」

西脇先生、笑顔。百万ペソの笑顔。
よっ!中年の星!

「う〜んと…、ドンタコス…?」

西脇、思わず失笑。
「タコスは有名な料理だが、ドンタコスは日本のお菓子だ」

クラスの女子も笑う。
死ね!ブス共!
頭の中で呪咀を唱えると、あるひらめきが。

「あ、あれじゃね?西脇先生、チョリソーは?」

西脇、大げさにびっくりフェイス。リアクションは意外と大根。

「お〜、良く知ってるな、チョリソーな。チョリソーはもともとスペインの料理だが、メキシコはスペイン領だったからな、メキシコのチョリソーも、世界的に有名だな。うん、お前良く知ってるな」

西脇は、いい奴だ。まじ七三分けが似合うナイスガイ。俺、ご満悦。

「じゃあ、アルゼンチンで知ってることはあるか?」
…、んなもん、あるわけない。なんで西脇は俺に集中砲火を!?

「なにもないのか?お前、さっきから一生懸命ノート取ってるからさ、中南米に興味があるのかと思ったんだが…」

西脇先生、俺の前に来てノートを覗き込む。
こんな時、最前列の席順がうらめしい。

俺の空想レスラー列伝を、興味深そうにながめる西脇。

「お、いろいろ書いてるな。アルゼンチンは…、うん、なんだこれ?アルゼンチン…?必殺技、チン…アタック?ははは、傑作だな。」

西脇、怒るどころか笑ってる。
まじ理解ある教師。

「一応、授業内容も取り入れられてるんだな、ははは、けっこう、けっこう」

俺達のやりとりを見て、ブスが“何書いてあるの〜”と聞いてる。
読み上げられるかと、一瞬焦ったが、
「ん〜、授業終わったら、見せてもらいなさい、ははは」

西脇最高。すばらしい流し方。
“そ〜しよ〜、後で見せてね〜”
誰が見せるか!ブス死ね!

いやしかし、西脇はいい奴だ。

ちょっと、地理が好きになった。
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