放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め
熊田先輩が、バーベルを床におろした。

一段落したっぽい。

俺は熊田先輩の肩にふれ、呼び掛けてみた。

「あの…、熊田先輩…」

熊田先輩、ビクッと肩をすくめ振り返る。
すごい目、超見開いてる。

「なに!?ちょっと、も〜、なによ!ビックリするじゃない!」

熊田先輩はめちゃくちゃ慌ててヘッドフォンをはずす。
そして、一呼吸置いて普通の顔に戻った。

「ん〜、…。なんだ、お前か…、何の用だ?俺は今、夏の大会に向け、トレーニングをしてるんだ。邪魔するな。」

はずされたヘッドフォン、さっきより大きく、長渕剛的な歌声がもれている。

「すみません…、呼んだんですが、ヘッドフォンされてたから、肩をたたきました」

はずされたヘッドフォンからは、長渕剛的な歌声がもれている。

「俺は筋トレ中は集中できるように音楽を聴きながらやるのだ。そう…、あ…、お…、…、オレンジレンジ?…を聴きながらな、集中力を高めてるんだ」

はずされたヘッドフォンからはなお、長渕剛的な歌声がもれている。

「熊田先輩…、オレンジレンジを聴くんですか…?」

ヘッドフォンからは、長渕剛的な歌声で“ヨ〜ソロ〜”と、もれている。

「いけないか〜!俺がオレンジレンジを聴いてはいけないか〜!お、俺だって…、オレンジレンジとかを、聴いたりするのだ〜!そ、それより、なにしに来たんだお前!」

そうだ、熊田先輩だってオレンジレンジとかを聴くだろうし、ヘッドフォンからもれているのは、たぶん長渕剛的な歌声だがオレンジレンジなんだろう。
今、大事なのは、長渕剛的な歌声のオレンジレンジではなくて、俺が何のために部室に来たかだ。

俺は深々と頭を下げて、大声で言った。

「熊田先輩、申し訳ありませんでした!」
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