放課後の寝技特訓・熊田先輩の横四方固め
妄想アナウンサーの実況を聞きながら、無言のまま時間は過ぎていった。

俺は相変わらず携帯電話をいじるふりしてさ。

亜希は手帳になんか書き込んでるみたいだった。

俺のことを気にする素振りもなくね。

亜希は、俺のことなんか眼中になさそうだった。

教室に2人きりだったのに。

俺の頭には、ある言葉が浮かんだよね。

“1人相撲”

まったく、とんだ、はっけよい!だよ。

やっぱ、プロレスバージョンじゃなくて、相撲バージョンが正解だったか?って思ったね。

プロレスバージョンは多様性が魅力だけど、その分わかりにくさがでてきてさ、逆に足もとをすくわれてしまう側面があるからね。
その点からいえば、相撲のほうがシンプルでわかりやすかったかもしれない、って。

だから俺は考えてみた。

“はたして、エンターテイメントにおけるキャラ設定の基本原則とはいったい…”

その時、亜希が突然話し掛けてきたんだ。

「新しそうだね、その携帯。メールしてるの?」

相撲とプロレスを計りにかけたあげく、エンターテイメント論についての自分会議をしてる最中だった俺は、急な問い掛けにテンパってさ、頭の中ではリングアナの実況が続いてたしね。

“おーっと、シークレットエックスの奇襲攻撃だ!記念すべきファーストコンタクトはシークレットエックスの奇襲!不意を突かれたガリレオ☆ガリガリ、さあ、これをどう受けるのか!?”

どう受けるもなにも、テンパってるんだから、ゆる〜い返ししか出来ない。

「えっ?あっ、そ、そう、買ってもらったの、えへへ、あ、まだね、使い方、なれてなくて、あの、メールじゃないんだけど、ボタン押してるだけ」

あまりにひどい返答に、頭の中では観客が超ブーイングしてた。

「ブーーー!!」

でも、亜希はあんまり気にしてない様子でさ。
「みんな入学で買ってもらうんだね〜」
なんて笑ってた。

俺は、“この娘、結構ふところ深いな”なんて思いながらさ、ふと亜希の机の上に目をやったんだ。

したらさ、意外にも亜希の手帳はディズニーなんだよね。
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