オフサイド


最寄り駅に到着する20分位の間、そんなことをぼんやりと考えていた。


今まで苦痛だった榊くんとの沈黙の時間も、不思議と気にならなかった。


『まもなく夕陽ヶ丘、夕陽ヶ丘。お降りの方は、車内にお忘れ物のないよう……』


下車を告げる車掌のアナウンスが入り、慌てて英語のテキストをバッグにしまい込んだ。


榊くんに続き、プシューと開けられた扉からホームへ降り立つと、熱気と湿気に包まれ、思わず顔を顰めた。 


人の流れに沿い、改札への階段を下りようとしたときだった。 


「――菜摘ちゃん!」


男の子の声で呼ばれたような気がした。


パッと周りを見渡したものの、聞き間違えかと思い、歩を進めようとした。 


「菜摘!!」


今度は女の子の声が聞こえ、振り返ると、そこには珍しい二人が立っていた。



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