オフサイド
漁港の反対側は、背丈をゆうに越す、コンクリートの塊で覆われた堤防が続く。 

大きな壁に遮られ、ここからは何も見えない。


堤防に打ち付ける荒々しい波の音だけが、海の存在を識らせてくれる。


「菜摘、俺が肩車するから、ここに乗って!」


「はっ?肩車って……まさか、ここ登るの?」


「うん。だから、早く乗って!」


「やだ。そんなの無理に決まってるじゃん!スカートだし、私、重いから無理だよ」


「大丈夫だって!俺だって、伊達に鍛えてるわけじゃないんだから」


「大丈夫じゃないって!無理ムリ!絶対、無理!!」


頑なに拒否する私に、溜め息をついた裕也は、呆れたように口を開いた。 


「じゃ、俺が先に登るから菜摘もあとから登ってこいよ!」


そう言うなり、コンクリートの窪みにひょいっと足をかけた裕也は、そこから軽々と攀じ登った。 



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