オフサイド
「菜摘、自転車いいか?」
「うん」
込み上げてくるものを必死で堪え、渡された自転車のハンドルをギュッと握った。
さっきまで、裕也の手に握られていた温もりが、じんわりと伝わってくる。
それを確認すると、
「そろそろ行くね。じゃあ、またな!」
とだけ言い、裕也はくるりと向きを変え、来た道を走って帰って行った。
だんだんと遠くなる裕也の背中。
裕也―――…。
その姿が見えなくなるまで、ずっと目で追った。
再会と別れを一度に経験した、16歳の夏の出来事だった――。