オフサイド
人目も憚らず、涙を流した。

溢れ出る涙が零れ落ちるように、その場に崩れ落ちた。


「裕也、ずっと菜摘のこと好きだったんだってさ。今まで俺に遠慮してたみたいだけど、ようやく菜摘が自分の方、向いてくれたって喜んでるからさ…」


頭上で独り言のように呟く直人。


「『お前、大丈夫かよ?』って言ってやったんだ。『俺が呼び出したらすぐ来る菜摘だから浮気とか心配だろ?』って。そしたら裕也の奴、『そんなことあるわけない』って言い張ってさぁ」


「………」



心にも北風が吹いた、師走の出来事だった。 


裕也は、1年前のあの日のことを言ってるんだね。


誤解とはいえ、二度も裏切るような形になり、何も言い返すことができなかった。


手を伸ばせば、すぐそばにいるのに、『別れ』という選択肢だけが、私の前に立ちはだかった――。




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