オフサイド
このあとのことは、よく覚えていない。
時折、強く吹き抜ける風の中、「ごめんね」とだけ伝え、屋上の重たいドアを抉じ開けた。
後ろ髪を曳かれながら、一度も振り返ることはできなかった。
自分だけが、辛く悲しい想いをしている悲劇のヒロインになったような気分だった。
このとき、裕也の本当の心の闇を知らなかった。
病室で見せた、笑顔の裏に隠された真実を……。
一人で悩み、苦しんでいた裕也が別れを決意した本当の理由を……。
その心に寄り添うどころか、「私」という存在が、再び彼を傷つけてしまうことになるなんて……
このときは、気付かなかった。
入院がもたらした二人の再会は、皮肉にも「物理的な別れ」から「精神的な別れ」への道しるべともなってしまった――。