オフサイド
小さな裕也に会えたような喜びに包まれ、彼に釘付けになった。



器用にひょいっと爪先でボールを救い上げ、手のひらに乗せた翔也くんは、そのままドアの向こうに消えていった。



玄関先には、裕也や翔也くんのと見られる自転車やサッカーグッズが置かれていた。


それを見届けると、再び自転車を走らせ、堤防までやってきた。



目の前に立ちはだかる巨大なコンクリートの壁。 



あの日は、裕也の手を借りて登ることができた。 


今日は……

自分一人の力では及ばなかった。 



仕方なく、壁に身体を預け、腰を下ろした。


目を瞑り、耳を澄ますと、背中から岸壁に押し寄せる波の音が聞こえてくる。 



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