オフサイド


あのとき――…


陸橋を渡った先に見えた東南学園の第2グラウンドを見ながら榊くんが呟いたこと。 


『実力がある奴は、どんな環境に置かれてもやり抜く力がある』


『俺の知り合いに自ら過酷な状況に追い込んだ奴がいるんだ。そいつのサッカーに対する考え方は、並大抵じゃない』


あれは、裕也のことだったの? 


榊くんが、それほどまでに裕也のことを認めているなんて。 


榊くんだって、ユースでは期待されているストライカーだと耳にしたことがある。


そんな彼が認めるくらいなんだから、やっぱり裕也には実力があったんだね。


上へ上へと目指す気持ち、当然だよね。


裕也なりに、自分のサッカーができる最適な場所を、15歳ながら考えたんだね。

でも、今どうして、榊くんがこんなことを話すのかが分からない。


私に何を言いたいのだろう。


でも、裕也の話をするのは嫌ではなかった。寧ろ嬉しかった。


私の知らない裕也に会えるような気がして。




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