オフサイド
「軽い気持ちで付き合ってたわけじゃないんだろう?」


小さな子をあやすような榊くんに、小さく頷いた。



「裕也が別れたのは、菜摘ちゃんのことを嫌いになったからじゃないと思う」


「……えっ!?」


「菜摘ちゃんのことが大切だから自分から手を引いたんだよ、きっと」


「大切だから……手を引いた?」


呟くような私の声にゆっくり頷いた榊くんの前髪を、風がさらりと揺らした。



「好きな女の子の幸せを願わない男なんていないよ。男ってさ、本当は自分の手で守ってあげたいのに、それをなかなか口に出せなかったり、強がってみたりするんだよな。男って、そんな生き物だよ。ある意味、女の子の方が強いかもしれないよな」


「………」


榊くんの話を聞きながら、だんだんと目尻に涙が溜まっていくのが分かった。


零れ落ちないよう、それを必死で堪えた。




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