オフサイド
その顔に見覚えがなかった。
それなのに、どうして私の名前を知っているの?
首を傾げた私は、薄気味悪さを感じ、「失礼します」と頭を下げ、自転車のハンドルをギュッと握った。
すると、男はさらに詰め寄った。
「ねぇ、今から二人で楽しいことしない?」
口角を上げてニヤリと笑う顔に、背筋がゾッとした。
返事をするまでもなく、あからさまに不快感を示し、目を逸らした。
「大丈夫だよ!怖がることなんてないよ」
そう言いながらじわりと近付くと、男は私から自転車を簡単に奪い、そのまま砂利道に投げ倒した。
「なにするんですか!」
慌てて、自転車を起こそうとしゃがんだ私の左手を、男は掴んだ。
「い、や…やめ……」
怖くて、うまく言葉が話せない。