オフサイド


「大丈夫?」 


芝生にしゃがみこんだまま動けずにいた私は、ゆっくりと顔を上げた。


「榊くん……」


そこには、腰を屈め、顔を覗き込む榊くんがいた。


「怖かったね。もうちょっと早く来てたらこんな目に遭わずに済んだのに。ごめんね」


……助かったんだ、あたし。

……よかった。本当によかった。


安堵から一気に涙が溢れだした。


榊くんは、そんな私の背中を優しく擦ってくれた。



改めて、さっきの恐怖が甦り、怖くて身体の震えが止まらない。 


でも、それ以上に榊くんの優しさが身に染みて、涙を堪えることができなかった。


聞けば、今日はJリーグのホームでの試合があるため、ユースの練習は5時で切り上げたとのこと。


そして、いつもは通らないこの道を榊くんが偶々通ったこと。 


いくつかの偶然の重なりによって、私は榊くんに助けられたのだった。



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